当動画の編集と運営は、書肆吉成とコトニ社が共同で行っています。
詩人・吉増剛造さんとシンガーソングライター・マリリアさんのgozo’s DOMUSというチャンネルで、 2020年4月30日より毎週木曜日に映像詩「葉書Ciné」をアップしています。
葉書詩
28 MAY 2020 吉成秀夫氏に。
“裂(さけ)or裂(さわけ)!”という声がしてメを覚ましていました、…それは、おそらく内臓のいたんだところからの、…小声だったのだけれども、その言の葉(ことのは)は、さらにひろがっていって、…道傍の馬子さんが、恐山の幼子、……この子は、しかし、もう、はや、不在のの子の小声なのであって、…なんだろう、この”ひろがり”は、…と問う、次の囁きが、不空の、…つまり、存在しないような“囁きのひろがり”なのである、…。“山も裂けよ、河も裂けよ、おまえのたつ大地も裂けよ”もよし。しかしながら、さ、たしかに聞こえて来ているきりぎりすの声まで裂よ!というか!
第二信
「刹那を引き延ばすこと」W.B.Yeatsと荒木経惟さんのこと。マリリアさんが、不図、アラーキーが撮ったメは、光がちがうのよね、…と、粒(つぶ)、焼(や)、居(い)たのね、…。うん、写真(とまっている…)のすぐ傍に、ほんと僅かに写真(うごいている…)があるのよね、…。アラーキーの名人芸だけれども、“傍の刹那、…”があるのは、いいよね、…。剛(ゴー)ゾならいうね、その傍に、精霊があらわれるのだとね。そしてそのさらに傍にさ、…、“きりぎりす、きりぎりす”。
マリリアさんが歌うまえに朗読したのはイェイツの詩「湖の島イニスフリー」の一節
And I shall have some peace there, for peace comes dropping slow,
Dropping from the veils of the morning to where the cricket sings;
訳:あそこなら心もいくらかは安らぐか。安らぎはゆっくりと
朝の帷(とばり)からこおろぎがなくところに滴り落ちる。
※cricketは「こおろぎ」と訳されているが古日本語では「きりぎりす」と同じ虫。
詩「死の舟」は荒木経惟の妻陽子が亡くなったとき吉増が書いた詩。『死の舟』(書肆山田、1992)収録。
二行一連が続いていく形式がとられている。二行目頭は――(ダッシュ)で字下りとなっている。冒頭二行目は「蜘蛛が下りて来て」ではじまっており、――が蜘蛛の糸のようにも、線香の煙のようにも見える。
詩の成立については吉増と荒木の対談「写真、わが愛」(『GOZOノート3(わたしは映画だ)』(慶應義塾大学出版会、2016)がある。この対談は荒木陽子の命日1月27日に行われた。
詩の解説を含めた対談が朝吹真理子となされている「目くばりをはなれてわずかに眺めやること―荒木経惟『センチメンタルな旅』からはじめて」『火ノ刺繡』p1176
「裏からうつ(写、移、映、遷)しているのか、表からうつ(porject, cast, copy, move)しているのか」「アラーキー山門に立つ」『心に刺青をするように』p152
「福生(フッサ)、福生(フッツッァ)」『The Other Voice』(思潮社、2002)
煙について、「なえつつ、怒漲する、けむりよ、雪けむり」(『草書で書かれた、川』思潮社、1977)があった。
詩のなかで「ゆこう、永遠があんなところ、雪深い駅のそばにとまったままだ」とある。nearly stationaryである。
「けむり、とけてゆく。解けてゆく、かがみの邦。ひかる、黄金の壁。すべりやすいように、糸を敷いて登ってゆく、蜘蛛や樹木や清水のひかりぞ。」『草書で書かれた川』、ここで煙と糸が重なる。
永遠――、「アイルランド、刹那の眼―吉田文憲さんに」(『静かなアメリカ』書肆山田、2009)のなかに「ながい束の間」という言葉ある。
「永遠のスローモーションへ」は佐々木中との対談『火ノ刺繡』p884(pp891-892にはアラーキーと若林奮についても)、p950からも。
休止符(「休符の間、音楽は深呼吸している」―Valery Afanassiev)
「W.B.Yeatsから聞こえてくル、ノハ“刹那を引き延す(To prolong the moment)”こと。」「アイルランド、最深奥の魂ニ、・・・・・・」(『火ノ刺繡』響文社、2018、p376)
イェイツについては、
“mo cuishle=わが鼓動”と“わがこころ”(西行とイェイツ)『火ノ刺繡』p278
イェイツと柳田國男『火ノ刺繡』p470
詩の音の運び『火ノ刺繡』p592
イェイツ―詩のなかの道『現代詩手帖1985 11月号』 雑神、イェイツが伝へて来たこと。そして、ソルジェニーツィン『The Other Voice』思潮社、2002
イェイツが伝えてきたこと『剥きだしの野の花』岩波書店、2001
「不揃いの、フリム、光が」「アイルランドのほうへ 宇野邦一さんとの対話」『燃えあがる映画小屋』
『螺旋歌』pp99-100
刹那の景色―アイルランド『心に刺青をするように』
柄杓は佐々木中との対談『火ノ刺繡』p1002の「斗」として。