吉増剛造,マリリア【葉書Ciné】#2「アフンルパル, Meciendo」2020.5.7(Quintafeira)

当動画の編集と運営は、書肆吉成とコトニ社が共同で行っています。

詩人・吉増剛造さんとシンガーソングライター・マリリアさんのgozo’s DOMUSというチャンネルで、 2020年4月30日より毎週木曜日に映像詩「葉書Ciné」をアップしています。


映像のアフンルパルは登別市富浦にある遺構で, 知里真志保『地名アイヌ語小辞典』p4に図版がある。この小辞典は『剥きだしの野の花』(岩波書店, 2001)に枕頭の書にあげて「1969年頃, 金石稔が(もっとも大切にしていたであろう一冊を, 僕に, ……)手渡して呉れた」と, その本との出会いを記している。1987年にその地を訪れ, その年の「文学界」4月号に「想像もしなかった形態のアフンルパルへ」, 5月号に「小ファミリアは, 蘭法(ランポク)の丘を, 登って行った」を連載, 『螺旋歌』(河出書房新社, 1990)に結実した。また, 1990年1月には東京ギャラリヴェリタで初の個展である写真展「アフンルパルへ」を開催し, 熊本, 沖縄, 札幌(テンポラリースペース)を巡回。書肆吉成発行の「アフンルパル通信」創刊号(2007)に詩「poil=ポワル=毛, アフンルパル」を特別寄稿している。なお, この富浦, 蘭法華岬にあるアフンルパルは, ほかの地域のアフンパルの洞窟などと違い, すり鉢状のUの字形の凹みとしてある。現在は道路が遺構を一部破壊している。


第一パートのバックに聞こえる声は土方巽の葬儀の香典返しとして配布されたLPレコードを遅回しにしたものと思われる。 土方巽『慈悲心鳥がバサバサと骨の羽を拡げてくる』(書肆山田, 1992)のp7-p9に一致する。『舞踏言語』(論創社, 2018)に「亡くなられてから, 土方巽の声に呪縛された。とうとうそれを, 結局, 全部筆耕をしてしまうようなことになった。三, 四年かかりました。」と発言している(p25)。その少し後では「ぼくが土方さんのバサバサ(…)の「舞踏」を筆耕したじゃないですか。あれも「手の舞踏」で追悼していたのね」と語っている。土方の声と吉増の手が重なったDuoの舞踏書物が『慈悲心鳥がバサバサと骨の羽を拡げてくる』であるといえる。また, 同書p79では, 吉増が土方の身振りを真似てみて「なにげなく, 虚空をつかむふりをした。そして首の骨を鳥のように, 空飛ぶような気持ちで不明の方位にむけてみたり, 手首をなにか蛇のようなものに変化したと信じこむふりをして曲げて, 部屋の中心にむけてみる。一人で不思議な遊戯にふけったわけだが, 」と, 土方の舞踏を追跡するなかで手の動きが意識されていることが垣間見える。『王國』(河出書房新社, 1973)をお持ちの方はp211です。

マリリアさんの歌はチリの女性詩人ガブリエラ・ミストラルの詩「Meciendo」に, マリリアさんが曲をつけた歌。歌詞(詩)を以下に。

Meciendo

El mar sus millares de olas
mece, divino.
Oyendo a los mares amantes,
mezo a mi niño.
El viento errabundo en la noche
mece los trigos.
Oyendo a los vientos amantes,
mezo a mi niño.
Dios Padre sus miles de mundos
mece sin ruido.
Sintiendo su mano en la sombra
mezo a mi niño.